広島大学 有本 章
2004年1月
この度、図らずも藤田英典会長を継いで会長職をお引き受けすることになりました。微力ながら最善を尽くして伝統ある日本教育社会学会の一層の発展に努力する所存ですので、会員各位のご支援ご鞭撻をお願い申し上げます。
周知の通り最近の社会変化はあまりに急激でありますが、知識社会、グローバル化、市場化などは、そうした変化を世界的にも推進しているキー概念とみるこ とができるかと存じます。とりわけ、知識社会あるいは知識基盤社会の台頭は本学会にとっても関係が深い現象とみなされます。社会を動かす原動力としての知 識は、いわゆるモード1からモード2へと展開し、それに対応して基礎科学、形式知、アナログ型などのみではなく、応用科学、暗黙知、デジタル型などの知識 が見直される時代を迎えつつあります。それに呼応してアカデミズム科学の支配する知識社会1から社会全体が知識社会化する知識社会2へ移行する状況が出現 しています。大学や学会が知識の生産や統制に自己完結的に威力を発揮する時代は終焉を告げ、広く政府、企業、マスコミ、財団、消費者など社会各層における 影響力が高まる時代に突入していると観察されます。
このような知識社会の到来は、確かに学会というものの威力を相対化させ、従来ほど権威や威信を保持できなくするのは否定できませんが、それにもかかわら ず、学会は知識の発見である研究や研究成果を伝達する教育において、今まで以上に主体性をもって取組み、社会的な自覚や責任を果たすことが不可欠になって いるのではないでしょうか。
特に日本教育社会学会は、従来からも広く社会と教育の関係に研究を通じて総合的に関わり、教育の社会的条件・機能・構造といった問題に対して、基礎科学 にとどまらず応用科学や政策科学を標榜する中で積極的に発言してきた実績があります。このような学問研究を通じて社会発展に貢献する営みは、知識の社会的 比重が一層高まり、研究や教育のあり方が社会発展を左右する度合いを一段と高める時代には、ますます期待されることになるのは自明です。例えば、教育の現 場では揺りかごから墓場までのライフサイクル全域において、家庭・地域・学校・大学・職場などでの社会化や人間形成に混迷状態が続き、新たな理論・計画・ 政策・実践が模索されています。いまや社会と教育をめぐるさまざまな領域で改善や改革が回避できない事態を招来していると言って過言ではないでしょう。
その意味で、すでに半世紀以上の歴史をもつ本学会が現実を直視し、過去の業績を踏まえつつも、新たな使命や課題を遂行するために各専門領域での学問的生 産性の達成に持てる力を十分発揮することが期待されます。その実現には量的に約1400名に成長した組織がそのような研究成果の質的保証に向けて凝集力を より深めることが必要でしょう。中核には、理事会、評議員会、事務局の活動はもとより、学会誌、学会大会、課題研究、学会奨励賞、社会調査士認定機構など 活動全般の一層の充実があることは言うまでもありません。
最後に、会長が地方在住・事務局が東京所在の形態は過去には稀少ですが、今回はそれに該当しますことから、運営上に多少の工夫が必要かと存じます。その点も含めて会員各位のご理解とご協力をお願いいたします。