大阪大学 志水宏吉
2021年9月
私が教育社会学という学問に出会ったのは、19歳の時でした。家族・親族のなかで初めて高等教育機関に進学した私には、教育社会学という学問はきわめて魅力的なものに映りました。自分のルーツやルートが、鮮やかに説明されていくのです。もっと勉強したい、そう思いました。教育社会学という学問がなければ、大学人としての私のキャリア、そして現在の私の生活のすべてはなかったと断言できます。それぐらい、自分にとってこの学問が持つ意味は大きいものなのです。
会長は、50人ほどいる理事の互選で決められることになっています。吉田文前会長から、私が選ばれたという連絡をいただいた時、予想外のことに驚きはしましたが、「喜んでお引き受けします」という返事をすぐに出しました。これは、教育社会学という学問にわずかながらも恩返しできる好機ではないか、と考えたからです。2021年秋に関西学院大学主催で行われた大会(すべてオンライン)は、第73回大会でした。学会活動は、たとえて言うと、終わりのない駅伝競走のようなものです。会長について言うなら、私は19人目の会長(ランナー)ということになります。2年後、次の会長さんにバトンを首尾よくお渡しすることが、私の務めとなります。
今期の学会運営に携わる、私をはじめとする事務局メンバーにとっての最大の課題は、「法人化をスムーズに進めること」にあります。今から2年後の、2023年9月に一般社団法人に移行することを目標に設定し、それに向けて準備を進めます。吉田前会長の言葉をお借りすれば、法人化は「学会活動および学会会計の責任体制を明らかにする」ために行うものです。学会の「格」をひとつ上げるということになるでしょうか。その目標に向け、粛々と準備を進めていきます。
ただそれだけではありません。そもそも会員の皆さんにとって、学会が任意団体であるか、一般社団法人であるかは、実はそんなに重要な問題ではないはずです。忘れてはいけないのは、学会というものの本質です。それは、「同好の士」が集まるものだということです。簡単に言うと、学会は「サークル」のようなもの。学会で、好きな研究を追究する。皆で自由闊達に議論する。志を同じくする仲間を見つける。学会は、そういう場であり続けなければなりません。学会は、シンプルに楽しいところでなければならないのです。日本教育社会学会を、今まで以上に刺激的かつ魅力的な場になるよう、全力を尽くしたいと考えています。法人化という制度化のプロセスが、そうした学会の本質をゆがめるものであってはなりません。
具体的には、学会の質をさらに高めていきたいと思います。方向性は2つ。第一に、会員サービスの質を高めること。第二に、社会的プレゼンスを高めること。
前者(=会員サービスの質の向上)については、私の職場での同僚でもあった、前々会長の近藤博之先生が常々おっしゃっていたことでした。「内向き」の視点ですが、安くはない会費に見合うだけの会員サービスを提供しなければなりません。前期では、学会誌へのオンライン投稿、学会HPのリニューアル等がなされました。今期も、ルーティン的な学会活動の見直し・改善を図っていきます。
後者(=社会的プレゼンスの向上)については、私自身が強い関心をもつテーマです。「外向き」の視点と言えるでしょうか、教育社会学の存在感や影響力をより高めていきたいと考えています。私は昨年まで、日本学術会議の会員(教育学分野)や教育関連学会連絡協議会の事務局長を務めていました。その仕事をするなかで、教育社会学は、個々の研究者の業績はしっかりしているものの、学会という集合体としての社会的アピール・発信力にはまだまだ改善の余地があると感じてきました。研究のための研究に自閉することなく、社会との接点・社会へのインパクトを大事にしていきたいと考えています。
格差社会・リスク社会の現実が私たちの生活の中心を占めるようになってきている今日、教育社会学に課された社会的使命にはきわめて大きなものがあります。存在学としてのアイデンティティを基盤に発展してきた教育社会学ですが、さまざまな社会的諸課題に対して改善・解決策を提示することが今日強く求められるようになってきています。皆さんとともに、社会への開かれた回路をもつ教育社会学の道を探究していきましょう。