会長就任のご挨拶(吉田 文)

早稲田大学 吉田 文

2017年12月

 

 人生思いがけないことが起こるものです。会長に選任いただきました。会員の皆様の学会への深いコミットメント、理事会の的確なアドバイス、常務会メンバーの強力なサポートのもとで、会長を務めてまいる所存です。どうかよろしくお願いします。

 

 教育社会学会が設立されて 70 年を迎えることができました。各種の 70 周年事業が結実しつつありますし、『教育社会学研究』も第 100 集の記念号が刊行されました。これらをみるに教育学としても社会学としても周辺にあることを自認していた教育社会学が、1 つのディシプリンとして自立したことがよくわかります。教育関連および社会学関連の学会でも、教育社会学会をベースにしている方々が活躍しておられますし、メディアとの関わりと言う点でも、教育社会学の研究成果が多く引用され、露出度も高くなっています。日本の教育社会学は 70 年間にいつのまにか中心に移動してきた感があり、それは大変喜ばしいことです。これは、教育社会学が、社会の動向を漏らさずキャッチし、確実な方法論でもって解いてきたことによるもので、研究の蓄積は学会の大きな財産です。この間、会員数は増加し現在 1,500 名弱になり、教育系の学会のなかでは大きい規模に属するまでになりました。

 

 このように考えると、学会として喫緊の課題はないようです。しかしながら、目の前にある課題だけが問題というわけではありません。これについて 2 つ思うところがあります。

 

 1 つは、研究者としての足場の問題です。教育社会学会の会員の多くは、教員養成に関連する場で職を得ていますが、そこでの教育社会学という科目提供は減少傾向にあります。実践志向が強くなる教員養成の場において、教育社会学はその要請に応えることが難しいのでしょうか。さらには、大学における教員養成そのものも、少子化のあおりを受けて安泰ではなくなりつつあります。教育社会学が拠って立つ基盤が危うくなりつつある状況に対し、教員養成あるいは教育実践に関して教育社会学の果たしうる役割を説明し、教育社会学のプレゼンスを高める方策を考えていくことが必要です。

 

 もう 1 つは、教育社会学の研究のあり方です。確かに、日本国内において教育社会学の自立性は高くなりました。欧米の研究に方法論を学び、それをもとに日本社会を説明するという姿勢からも脱却しました。しかし、日本の教育社会学研究は、日本以外の社会への発信を念頭においてなされているのでしょうか。また、発信されたとして、それがどこまでグローバル化した研究の世界のなかで通用するのでしょうか。自立が自閉にならないよう自戒しつつ、研究成果のグローバル社会での流通可能性を考えることが、次へのステップであると考えています。

 

 これらは、1 ~ 2 年で解を得られるものではありません。数年単位の視野でもって今後の方向性を見極めていくことが肝要です。それに着手するのが私の任期の課題であり、これをもって所信表明とさせていただきたく存じます。