日本教育社会学会奨励賞第11回(著書の部)

日本教育社会学会第77回大会にて2024年度日本教育社会学会第11回奨励賞(著書の部)の授賞式が開催されました.

受賞著書と受賞の言葉,受賞理由は次のとおりです.

 

 

【受賞著書と受賞の言葉】

 

数実浩佑(龍谷大学)

2023,『学力格差の拡大メカニズム―格差是正に向けた教育実践のために』勁草書房.

 

この度は栄えある賞を賜り、誠にありがとうございます。

審査にあたっていただいた先生方に厚く御礼申し上げますとともに、大学院時代の指導教官である志水宏吉先生、博士論文の副査を務めていただいた髙田一宏先生、中澤渉先生をはじめ、日頃よりお世話になっている皆様方に、この場をお借りして心より感謝申し上げます。   

本書のテーマは学力格差の生成メカニズムですが、「はじめに」で記した通り、実証研究と規範研究の接続を意識しており、なぜ学力格差は維持・拡大するのかという経験的な問いに答えるとともに、「何のために格差を解消するのか」「なぜ学力にこだわるべきか」といった価値判断にかかわる問いにも取り組んでいます。計量分析、フィールドワーク、規範理論など、さまざまな方法・理論を扱うことで、「広く浅く」なってしまったことは否めませんが、領域横断的視点をもつ「挑戦的著作」として評価していただき、大変励みになりました。

独りよがりではない、着実な研究を進めていくためには、確かなエビデンスを積み重ねていくとともに、異なる理論的視座を突き合わせながら、批判的に自らの研究を振り返ることが不可欠だと考えております。そのためにも教育社会学会の場で皆様と議論を交わしながら、「何のための研究なのか」を常に意識しながら、社会に貢献する研究を模索していきたいと考えています。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

 

数実 浩佑

 

 

高田俊輔(上越教育大学)

2024,『教育による包摂/排除に抗する児童福祉の理念―児童自立支援施設の就学義務化から』春風社.

 

このたびは、栄誉ある賞にご選出いただき、大変光栄に感じております。貴重なお時間を使って審査していただいた選考委員会の先生方に心より感謝申し上げます。

本書は、学校教育が児童自立支援施設入所児童を教育対象として包摂していく動態に着目し、それを契機に生じた「教育と福祉のせめぎあい」がいかなるものであるかを、歴史研究とフィールド調査を併用して通時的・共時的に分析しております。子どもを捉える多様な専門性は、それぞれ独自の歴史的経緯の中で、隣接する専門職との対立をも含みながら構築されるものです。その意味で本書の知見は、こども家庭庁のような近年の子ども政策の総合化に関する議論に対しても、参考になる視点を提供できるのではないかと考えております。

本書の執筆は、多くの方々のご支援なしに達成することはできませんでした。大阪大学大学院人間科学研究科においては、自由で学際的な雰囲気の中で研究を進めることができました。指導教員の藤川信夫先生、学位論文の副査をお引き受けいただきました木村涼子先生、高田一宏先生をはじめ、ご指導いただいた全てのみなさまに心よりお礼申し上げます。また、調査でお世話になった児童自立支援施設で出会った子どもたち、施設職員のみなさまにも感謝の気持ちを伝えたく思います。外部からやってきた何者かも分からない私に対して、子どもたちは農作業に用いる鍬の使い方や鎌の手入れの仕方などを丁寧に温かく教えてくれました。彼らと生活を共にすることを通して、安心・安全の環境づくりを中心とした福祉的な営みを一から教えていただいたように思います。

このたびの受賞を励みに、今後も研究活動に精進してまいりたいと思います。

 

高田 俊輔

 

 

豊永耕平(近畿大学)

2023,『学歴獲得の不平等―親子の進路選択と社会階層』勁草書房.

 

この度は、栄誉ある賞を賜りまして、誠にありがとうございます。学会奨励賞選考委員会の委員の先生方、本書をご推薦いただいた先生方には、心より厚く御礼申し上げます。

学歴獲得の不平等が長期的かつ安定的に生じていることは、社会階層と社会移動全国調査(SSM調査)などをもとにした既存研究においても、繰り返し指摘されてきました。本書は、そうした出身階層の影響が具体的にどのように生じているのかという問いに対して、高校生とその母親1020ペアを対象とした独自の質問紙調査と、そこから選抜した親子へのインタビュー調査を組み合わせることで検討したものです。

とくに本書では、学力の階層差による社会階層の一次効果というよりも、学力が同程度であってもなお残存する教育選択の階層差、すなわち社会階層の二次効果に着目しました。そして、学歴獲得の不平等が、訓練可能性を重視し、職業的スキルを相対的に重視しにくい日本の労働市場の構造のなかに、いかに埋め込まれているのかを明らかにしています。量的データと質的データを往復しながら分析を進めることで、社会階層論に基づいた教育社会学では捉えきれなかったプロセスの一端を描き出すことができたのではないかと考えています。

本書の成果は、私ひとりの力によるものではありません。調査にご協力くださった多くの高校生と保護者の皆さまはもちろん、指導教員の中村高康先生、副査を引き受けてくださった佐藤香先生、額賀美紗子先生、濱中淳子先生、藤原翔先生、そして出版に向けて継続的にご支援くださった古田和久先生、多喜弘文先生、小川和孝先生には、厚く御礼申し上げます。

今回の受賞を大きな励みとし、今後も教育社会学の立場から、学歴や教育をめぐる不平等の実態とその生成メカニズムについて、実証的に研究を積み重ねるとともに、国際学会での発表や国際誌での論文発表にも取り組んでまいります。社会調査の二次分析が一般的になりつつあるなかで、誰かが調査を行わなければ、新たな調査データは蓄積されません。今後も「足を動かす」計量的な教育社会学者であり続けたいと考えています。

 

豊永 耕平

 

 

第11回学会奨励賞「著書の部」
【受賞理由】

 

1)数実浩佑『学力格差の拡大メカニズム―格差是正に向けた教育実践のために』(勁草書房 2023)

 

本書は、教育社会学の古典的テーマの一つである学力格差の拡大メカニズムについて、従来の文化的再生産論とは異なる、R.マートンによる「マタイ効果」の概念を用いて分析・考察を行ったものである。これまで学力格差の存在は、親の経済的、文化的、社会的資源の違いによる世代間の資本継承プロセスによって説明されてきた。しかし、なぜ学力格差は学年が上がるにつれて拡大するのかは、文化的再生産論とは異なる理論枠組みを必要とする。マタイ効果は、家庭背景が豊かな子どもは学力が高い傾向にあり、その有利さを累積する好循環と家庭背景の厳しい子どもは学力が低い傾向にあり、その不利を累積し、学力が伸び悩む悪循環に注目するものである。

本書の学術的貢献は、学力格差の文脈で「マタイ効果」の存在する事実を二つの因果関係を明らかにしたことである。一つが、小3から小6まで約4千人の4時点パネルデータを用いて算数科目と国語科目ともに初期の学力と学習意欲が相互に影響を与える「双方向因果」の存在を示した分析である。今一つは、公立の小・中学校のパネルデータを用いて初期の学力低下の経験が学習時間の減少に至る悪循環が、社会経済的に不利な立場にある生徒に強く作用することを実証した点である。

また、本書は出身階層の低い子どもが悪循環に陥る「事実レベル」の分析に加えて、低学力に陥った生徒に対して学力「保障」の観点から「学力とは何か」、「なぜ学力格差は是正すべきであるのか」という「規範レベル」の考察を行っている。量的分析と質的分析の統合やフィールドワークの知見の深化などには課題があるものの、本書は分析・考察の背後にある分配的平等主義と関係的平等主義の規範的前提に自覚的であり、そこを踏まえることによって、学力格差の実態を客観的・経験的に解明する従来の研究において欠けがちであった領域横断的視野をもつ研究といえる。本書は、これまでの格差是正の論理の言説を編み直し、今後の学力格差研究のあり方の一つの方向性を示す挑戦的著作として高く評価できる。

 

2)高田俊輔『教育による包摂/排除に抗する児童福祉の理念―児童自立支援施設の就学義務化から』(春風社 2024)

 

本書は、学校教育と児童福祉の関係に着目し、その関係の過去から現在に至る状況を検討するなかで、学校教育と児童福祉のそれぞれの論理の葛藤(せめぎ合い)がもたらす問題を明らかにしつつ、それらに関わる実践者たちの対応の状況がどのようなものであったのかを明確にすることをめざすものである。

第1部では、明治期から現代まで、児童自立支援施設およびその前身となる施設における福祉と教育との関係をめぐる歴史的言説を分析し、倉石一郎(2021)の排除と包摂の「入れ子構造」を参照しつつ、学校教育の画一性を批判して、感化・保護事業こそが真の教育であることを主張してきた児童自立支援施設が、公教育導入を受け入れていく経緯を丁寧に描いた。第2部では施設職員と学校教員のインタビュー調査により、そこにおける児童福祉関係者たちが、教育と福祉の関係をどう捉え、またそこにどのように対応しようとしていたのかに迫る。そして、規範化された理念により自閉化している福祉の姿が明らかにされつつも、他方で異質な他者との対話の可能性についてもふれられる。以上のように、本書は児童福祉の実態や課題を精緻に浮き彫りにしつつ、今後の展望とその可能性を明らかにし、教育社会学における福祉研究を大きく牽引する可能性をもつものとして高く評価できる。

 

3)豊永耕平『学歴獲得の不平等―親子の進路選択と社会階層』(勁草書房 2023)

 

本書は、学歴獲得の不平等というマクロレベルの現象が、ミクロレベルの「親の介入」によって生成されるプロセスを明らかにした力作である。具体的には、不平等生成のメカニズムをR.ブードンの2次効果(学力や努力を一定とした時の出身階層)の理論枠組みに依りつつ、なぜ同じ学力水準であっても学歴獲得に伴う便益、費用負担、合格可能性の主観的な見込み、そして進路選択に階層差が現れるのか、そのプロセスを本人だけでなく親の水路付けとして検証するものである。

本書が既存の進路選択研究と比してユニークな点は、丹念な先行研究のレビューと、高校生とその母親1020組を対象とする独自の質問紙調査、および親子17ペアのインタビュー調査を駆使して、何よりも高校生本人だけでなく、「親もまた進路選択の主体である」というアプローチを取り入れていることにある。このような親子を分離するアプローチを採ることのメリットは、近年の高校間のトラッキングが弛緩し、高卒進路が多様化し、高校生の進路選択の自由度が増す中でトラッキングだけでは見えてこない親の階層再生産に向けた介入(子育て)を鮮明にすることができる点にある。

第1部ではSSM調査と就業構造基本調査を用いて、専門職・管理職入職、時給賃金に与えるタテとヨコの学歴の効用が検証される。今日の高等教育の大衆化と経済変動にかかわらず、親の学歴が社会経済的地位や大学進学の有無にもたらす影響は低下するどころか、むしろ強まっているという格差生成の2次効果が検証される。

こうしたマクロな趨勢を踏まえて、第2部では、大学進学の有無と銘柄大学に対する階層効果、大学進学の価値認識、高卒後の費用負担などの主観的認知について階層格差が存在することが計量分析とインタビューを重ね合わせて説得的に描かれている。大卒学歴に内実を求める高卒の親と大学進学を自明視し、一元的能力主義に馴染みやすい高学歴の母親では異なる水路付けが用いられている。

本書がブードンの格差生成の2次効果に依りつつ、大学進学の所得格差説に対して階層本位説の有効性を実証し、これまで幼児の発達研究等では用いられていたペアレンティングを高校生の学歴獲得のミクロなプロセスに適用するなど、その学術的な意義やインパクトを多々有する著作として高く評価できる。

 

 


 

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