潮木守一
1995年10月
はからずも,このたび会長職を委嘱されることとなりました。会員各位には今まで以上の御協力を頂きたく,この場を借りてお願い申し上げる次第です。新会 長としての抱負を述べよとのことですが,小生に課せられた第一の課題は,なによりもまず,歴代会長が尽力されてきた方向に添って,学会の発展のために,及 ばずながらも努力することだと考えております。
ただ一つ,小生の任期中に着手すべき課題として,いかにして当学会の情報発信能力を高めるか,という課題があります。御存知のように,最近における著し いコミュニケーション革命は,我々の情報交換手段を大きく変えはじめています。インターネットの急速な普及のなかで,日本国内は言うに及ばず,大陸を越 え,国境を越えて情報が自由に往復する時代が到来しようとしています。会員が広く全国各地に散在している我が学会が,このメリットを利用しない手はありま せん。そこで,今回一つの実験として,小生が所属する名古屋大学の国際開発研究科のホームページのなかに,「日本教育社会学会ニュース」の欄を設けました (接続先はhttps://www.gsid.nagoya-u.ac.jpです)。そしてブレティン刊行に先立って,この「会長就任のご挨拶」の原稿をそ こに搭載いたしました。ですから,会員のなかには,この小生の原稿を,通常のブレティン刊行よりもはるか以前にご覧になった方がいたことと思います。
この事例が雄弁に物語るように,従来のように活字文化,印刷文化,郵便システムに依存している限り,情報の伝達は時間がかかり,費用も嵩みます。たとえ ば,このブレティンの刊行には,原稿依頼の時点から会員の元に届くまで,約4カ月がかかります。またそのための費用は,郵送費別で約20万円ほどの額に達 します。ところが,インターネットを活用すれば,原稿執筆者が原稿を書き終えた瞬間に,会員のもとに届きます。しかもそれがほとんど無料です。知的アイ ディアの交換,研究成果の共有化を使命とする当学会にとって,これほど目的に適った通信手段はありません。このことからも判るように,将来はいちいちブレ ティンを発行しないで済む時代が到来するかも知れません。ブレティンの発行が不要となれば,その先に見えてくるものは何でしょうか。それはいうまでもな く,学会紀要の電子情報化です。すでに一部の学会ではそれが実行されていますが,その傾向は急速に広まるものと思われます。
さらにはまた,インターネットを利用することによって,会員間のコミュニケイションが様変わりすることになります。すでに会員数が1000名を越え,し かもその会員が全国各地に散在している我が学会にとって,会員相互間の交流を図るといっても,どうしてもそこには一定の物理的制約があります。しかしイン ターネット上で会員相互で情報交換,意見交換ができるようになれば,はるかに密度の濃い情報交換が,会員の自主性と意欲のもとに自由に,かつ随意に交わさ れることになります。これこそ知的アイディアの交流を目指す学会の本来の姿と申せるものでしょう。またかねてから,全国理事会,全国編集委員会,全国研究 部会などを,もう少し頻繁に開催できないかといった意見がありましたが,現在の学会の予算規模のもとではとうてい不可能なことでしょう。しかしインター ネット上に設けられた掲示板を利用すれば,全国どこにいようとも,自由に意見を出せることになります。これこそ,水平方向の分権化を実現し,学会活動を活 発化させる,またとない通信手段です。
ただ会員各位を取り巻く情報環境をみますと,かなりの相違がみられ,全員がただちにインターネットを通じてのコミュケイションに参加できる環境に置かれ ているわけではありません。したがって今後も従来行ってきた形態での会員への情報提供を継続することは,依然として必要です。しかし過去数年間に起きた急 速な変化から推測すると,これからの数年間には,もっと急速な変化が生じるものと思われます。我々としては,こうした今後におきるであろう変化に期待をか けながら,まず実験を開始し,我々自身が少しづつこのシステムに慣れてゆくことが,必要なのだと思います。
以上をもちまして,新会長としての御挨拶にしたく存じます。ちなみに小生のE-Mail番号は,a40493a@nucc.cc.nagoya- u.ac.jpです。E-Mail,ファックス,電話,手紙,何でも結構ですので,御意見,御提案をお寄せ下されば幸いに存じます。